東京地方裁判所 昭和62年(ワ)6866号 判決 1988年8月30日
原告 クラリオン株式会社
右代表者代表取締役 小山田豊
右訴訟代理人弁護士 山崎源三
同 新井弘治
同 新居和夫
同 玉重良知
被告 国民金融公庫
右代表者総裁 吉本宏
右代理人 梅田和男
右訴訟代理人弁護士 熊倉洋一
同 坂本裕之
主文
一、訴外株式会社タカベと被告との間の、別紙債権目録記載の債権についての、昭和六一年六月七日付債権譲渡契約を、原告の債権額金七五八万五五二〇円の限度で取り消す。
二、被告は、原告に対し、金七五八万五五二〇円を支払え。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、請求の趣旨
主文同旨の判決並びに二、三項につき仮執行宣言
二、請求の趣旨に対する答弁
1. 原告の請求を棄却する。
2. 訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
一、請求原因
1. 原告は、自動車音響部品の製造・販売、住宅整備機器・厨房設備機器の製造・販売等を営む株式会社であり、訴外株式会社タカベ(以下タカベという)は、住宅機器の販売、住宅内装工事の請負等を営む株式会社である。原告は、タカベに対し、昭和六一年二月一三日から同年五月七日までの間に、合計九四八万一九〇〇円相当の原告製造にかかるガスレンジ、電子レンジ等の厨房設備機器等を売り渡し、その売掛残代金額は七五八万五五二〇円である。
2. タカベは、昭和六一年六月一〇日及び同年七月一〇日の二回にわたって手形の不渡りを出し、事実上倒産した。
3. 被告は、タカベに対し、昭和六一年五月現在一七四〇万円を越える貸金債権を有していたところ、一回目の手形不渡りを出す直前の同年六月七日、タカベと通謀のうえ、右貸金債権の弁済に代えて、タカベが訴外東急建設株式会社(以下東急という)に対して有していた別紙債権目録記載の東急建設アルス上野毛分の売買代金・工事代金債権一七四〇万円の債権譲渡を受け(以下本件債権譲渡契約という)、同年七月ころ東急から右一七四〇万円の弁済を受けた。
4. タカベは、本件債権譲渡契約当時既に支払不能の状態にあり、タカベに対する債権者はほかにも多数あったのに対し、本件債権譲渡の対象債権(以下本件譲渡債権という)は最もめぼしい回収可能な財産であり、しかも、被告は、タカベに対する貸金債権の担保として、タカベの代表取締役である軽部良雄所有の土地・建物(昭和六一年六月五日付でその配偶者である軽部梅子に所有権移転登記済み)に極度額二六〇〇万円の根抵当権を有しており、本件債権譲渡契約がタカベの債権者を害する詐害行為であることは明らかであり、このことはタカベも被告も知悉していたものである。
5. なお、仮に本件債権譲渡契約が、代物弁済ではなく、被告のタカベに対する貸金債権の譲渡担保としてなされたものであったとしても、本件債権譲渡が詐害行為となることにかわりはない。
よって、原告は、詐害行為取消権に基づき、本件債権譲渡契約を原告の債権額七五八万五五二〇円の限度で取り消し、被告に対し、右取消額相当の金員の支払を求める。
二、請求原因に対する認否
1. 請求原因1中、タカベが住宅機器の販売、住宅内装工事の請負等を営む株式会社であることは認めるが、その余は不知。
2. 同2は認める。
3. 同3中、被告がタカベに対して昭和六一年五月現在貸金債権を有していたこと及び昭和六一年六月七日付でタカベと被告との間に本件債権譲渡契約が締結されたことは認めるが、その余は否認する。
被告は、タカベから弁済に代えて本件債権譲渡を受けたものではなく、譲渡担保として本件債権譲渡を受けたものである。また、被告が本件譲渡債権について弁済を受けたのは、昭和六一年一一月四日であり、弁済金額は、一一四〇万円であった。また、被告に右弁済をしたのは、東急ではなく、タカベであった。
4. 同4中、被告が原告主張の根抵当権を有することは認めるが、その余は否認する。
5. 同5は争う。
三、抗弁
1. 詐害行為の当時債権者を害することを知らなかったこと
(一) 本件債権譲渡契約は、次のような経緯によって成立したものである。
(1) 被告は、昭和六一年六月五日、タカベの代表取締役である軽部良雄(以下軽部という)の訪問を受けた。軽部の被告に対する申し出は、①タカベが近く第一回の不渡りを出すおそれがあるが、連帯保証人に迷惑をかけられないので、連帯保証人が保証している被告に対する債務は、東急に対する債権をもって手当てをしたい、②不渡りを出しても、金融機関に対するものを除いて、負債が三〇〇〇万円から五〇〇〇万円程度であるのに対して、資産は、売掛金等があるため、整理は大丈夫である、③債務の整理が大丈夫であるのに不渡りが出る事情は、融通手形として発行した支払手形の決済ができないことによるものである、ということであった。
(2) そこで、被告は、昭和六一年六月七日、タカベとの間で本件債権譲渡契約を締結し、タカベは同日、東急に対して債権譲渡の通知をしたものである。
(二) 被告は、融資先の債務弁済の状況については、督促を中心とする回収を図っているが、特段に弁済の遅れていない融資先については、その内情を知りえないのが実情であり、被告は本件債権譲渡を受けた時点では、軽部の言葉どおり、本件債権譲渡は他の債権者を害する結果とはならないものと信じていた。
(三) しかも、タカベが、倒産後である昭和六一年八月一〇日の時点で作成した債権者一覧表、債務者一覧表を見ると、右時点においても、タカベの認識は、負債が資産を超過していないというものであることがはっきりと窺えるのであり、昭和六一年六月七日の時点でタカベ及び被告が本件債権譲渡が他の債権者を害するという認識を有していなかったことは明確である。
2. 原告の詐害行為取消権の行使が信義則に反し許されないこと
(一) タカベが倒産したのは、昭和六一年七月一〇日であったが、被告がその事実を軽部から聞いて知ったのは同月二一日であった。そして、同日、被告は、タカベの代理人である綿引幹男弁護士(以下綿引弁護士という)から、債権者集会開催の通知を受領した。
(二) 綿引弁護士は、当初はタカベの代理人であったが、債権者集会開催後は債権者集会の代理人として行動するようになった。
(三) そして、被告は、綿引弁護士を窓口とするタカベの債権者からの要請で、本件譲渡債権から三〇〇万円を減額すること(本件譲渡債権から三〇〇万円をタカベの債権者らに交付すること)を承諾した。
(四) 綿引弁護士は、さらに、原告に交付すべき分として、さらに三〇〇万円を本件譲渡債権から減額することを要請した。そこで、被告は、この要請にしたがえば、原告を含むタカベの全債権者が、本件債権譲渡契約に対して詐害行為の主張も含めて、異議を述べないとの前提のもとに右要請に応じた。その後、債権者委員長からさらに減額する話が出たが、交渉の結果、本件譲渡債権額一七四〇万円のうち、一一四〇万円を被告が受領してよいということで話がつき、被告は、債権者委員長から、同年一一月四日付で、本件債権譲渡について異議を申し出ないことを債権者集会を代表して誓約する旨の文書を受領した。そして、東急からの支払代金決済は、右同日綿引弁護士の事務所でなされ、債権者委員長立会のもと、六〇〇万円は綿引弁護士が配当財源として管理し、その余が被告に交付された。
(五) 原告は、タカベの債権者集会に出席し、状況の説明を受けているほか、タカベ提出の資料を取得している。そして、タカベ提出の資料には、被告が本件債権譲渡を受けていること及び譲渡債権額から六〇〇万円を一般配当のため返還してもらう予定であることが明記されている。
(六) いわゆる任意整理の場合、債権者集会に出席しながらその場において他の債権者とは別の立場をとることを明示しなかった場合、特に、原告のような大口の債権者であればなおのこと、その後に特別に反対の意思表示をしない限り、他の債権者から、同一歩調をとることに賛成しているものと解釈されるものというべきであるが、原告は、第一回の債権者集会に出席して以後、特別の反対の意思を表明をすることは全くなく、債権者集会からの配当金も受領している。
(七) 原告の行動を見ると、まず、タカベからの受取手形の不渡りを知り、昭和六一年七月一八日付の債権者集会の招集通知を入手し、同年八月中旬の債権者集会に出席した。そして、その集会における説明と、配付を受けた資料によって、本件債権譲渡がなされている事実と、その処理に対する債権者の方針を把握した。しかるに、原告は、右債権者集会に先立つ同年七月二四日付で本件譲渡債権の仮差押決定を得ており、東急から同年八月五日付の陳述書を入手し、その直後にタカベに対して売掛代金請求の訴訟を提起した。原告のこの行動は、あたかも債権者集会と同一歩調をとるかのように見せ、債権者集会が被告から本件譲渡債権の一部を吐き出させるのを待ち、債権者集会から得ることをできるものを全て取得したうえで、他の債権者には知らせることなく、抜け駆けを図ったものである。
(八) 原告の被告に対する本件請求が認められると、原告は被告から支払を受ける金員を独り占めする結果になるが、原告はこのような結果になることを十分に承知のうえで、以上のような行動をとったものであり、原告の詐害行為取消権の行使は信義則上許されず、原告は本件債権譲渡契約について、他の債権者と同様、異議を放棄したものとして処理されるべきである。
四、抗弁に対する認否
1. 抗弁1(一)(1)は不知。
2. 同1(一)(2)は認める。
3. 同1(二)、(三)は争う。被告の主張自体からも被告に詐害の認識があったことは明白である。
4. 同2中、原告が第一回の債権者集会に出席したこと及び原告の振込口座に配当金相当額が振り込まれたことは認めるが、その余は争う。
本件譲渡債権の弁済期は昭和六一年七月六日であり、タカベが提出した債権者一覧表によれば、被告は昭和六一年八月一〇日現在でタカベの債権者になっていないことからみて、被告はこの時点で既に東急から本件譲渡債権について弁済(被告のタカベに対する貸金債権の関係では期限前弁済)を受けたものと考えられる。原告は、タカベの状態がどうなっているか、今後どうなるのか予測できなかったので、第一回の債権者集会に出席したのであり、原告が債権者委員長の誓約書に拘束されるいわれはない。配当金については、原告の債権に対して振り込まれたものを返す理由はないので、受領したにすぎない。
第三、証拠<省略>
理由
一、原告のタカベに対する債権の存在について
<証拠>によれば、請求原因1の事実が全て認められるほか、原告とタカベとの取引は東急の紹介により昭和六一年二月に開始したばかりであり、タカベは原告に対して買掛代金を全く支払わないうちに倒産したこと及び本件譲渡債権には、原告がタカベに対して売り渡した厨房設備機器等をタカベがさらに東急に売り渡したことによる売掛代金債権が含まれていることも認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
二、詐害行為の成立について
1. タカベが、昭和六一年六月一〇日及び同年七月一〇日の二回にわたって手形の不渡りを出し、事実上倒産したこと及び被告はタカベに対し、昭和六一年五月現在一七四〇万円を越える貸金債権を有していたところ、タカベが一回目の手形不渡りを出す直前である同年六月七日、タカベとの間で本件債権譲渡契約を締結したことは当事者間に争いがない。
2. <証拠>を総合すると次の事実が認められる。
(一) 被告は、タカベに対し、昭和六〇年一〇月三〇日、金一〇〇〇万円を、利息年七パーセント、最終弁済期昭和六五年一月五日、昭和六〇年一二月から毎月五日限り元金二〇万円及び経過利息を分割払の約束で貸し付け(以下第一貸付という)、さらに、昭和六〇年一二月一一日、金一〇〇〇万円を、利息年七・五パーセント、最終弁済期昭和六二年九月一五日、昭和六一年二月から毎月一五日限り元金五〇万円及び経過利息を分割払の約束で貸し付けた(以下第二貸付という)。そして、第一、第二貸付とも、タカベの代表者である軽部及び訴外丸山英二(以下丸山という)がタカベの連帯保証人となったうえ、昭和六〇年一〇月二九日、軽部所有の横浜市保土ケ谷区所在の土地建物(以下本件土地建物という)に対し、タカベを債務者、被告を根抵当権者とする極度額二六〇〇万円の根抵当権が設定され、翌三〇日、右設定登記がなされた。
(二) 原告は、東急の紹介により、タカベに対し、昭和六一年二月から、厨房設備機器を、毎月末日締切翌々月一〇日支払の約束で継続的に売り渡したが、同年五月ころ、東急から「タカベからの集金を終わったか」との話があり、不審に思い、タカベに打診したところ、「まだ倒産という形にはなっておらず、そのような傾向にある」との回答であったので、改めてタカベと契約書を取り交わす交渉をしていたが、その途中でタカベは手形の不渡りを出し、結局タカベからは全く売掛代金の支払を受けられなかった。
(三) タカベの代表取締役である軽部及びタカベの代理人である綿引弁護士は、一回目の手形不渡りが出ることが確実となった昭和六一年六月五日、被告を訪れ、「焦げつき債権が発生したので、資金繰りがつかず、近く一回目の手形の不渡りを出すおそれがある。そこで、タカベを整理することになるが、被告からの借入金の連帯保証人になっている丸山には迷惑をかけられないので、タカベの東急に対する債権(本件譲渡債権)の譲渡を受けてもらいたい。」との申し出がなされた。右申し出の時点までタカベから被告に対する第一、第二貸付の弁済は、遅滞なくなされていた。したがって、軽部の申し出は、右時点における第一、第二貸付の残元金合計一六八〇万円を、本件譲渡債権を被告に譲渡することにより期限前弁済し、タカベの被告に対する債務を全て消滅させたいとの趣旨であった。なお、被告は、この時点で、本件土地建物の担保価値(被告が根抵当権によって把握している担保価値)について一〇〇〇万円程度と判断していた。
(四) 被告は、軽部の右申し出に応じることにし、昭和六一年六月七日、タカベとの間で本件債権譲渡契約を締結した。しかし、被告のタカベに対する貸金債権額は一六八〇万円であったのに対し、本件譲渡債権の額は一七四〇万円であったし、東急が本件譲渡債権について弁済するか不確実であったので、「第一、第二貸付の期限前弁済の担保として」債権譲渡し、被告が東急から本件譲渡債権の弁済として回収した金額が被告のタカベに対する貸金債権額よりも多い場合は、剰余金をタカベに返還し、不足する場合は、不足額について被告のタカベに対する貸金債権が残存する旨約束された。
(五) 軽部は、このように、被告に対して本件債権譲渡による期限前弁済を申し出る一方で、妻である軽部梅子と協議離婚し、本件土地建物につき、昭和六一年六月四日財産分与を原因として、同月五日(右申し出の当日)、同人に対し所有権移転登記をなした。
(六) そして、タカベは、昭和六一年六月一〇日に一回目の、同年七月一〇日に二回目の手形の不渡りを出し、倒産したが、その間、同年六月一三日には、株式会社村上開明堂に対し、熊谷組に対する三一五万円の売掛代金債権を債権譲渡し、同年七月七日には横浜銀行に対し、三六二万六六七七円の事務所賃貸借保証金返還請求権を債権譲渡した。
(七) その後、昭和六一年八月中旬ころ、タカベの一回目の債権者集会が開かれたが、その際タカベから提出された債権者一覧表には、被告の名前はなく、横浜銀行の債権額も、債権譲渡後に残った無担保の債権額だけが記載されており、原告が実質的に最も多額な無担保債権者として記載されていた(小沢木工所の債権額の方が多いが、タカベは小沢木工所に対し右債権額を越える債権を有していた)。そして、この時点でタカベには不動産はなく、売掛金債権や貸付金債権などの債権にしても、回収可能なものはあまり残ってはいなかった。
(八) 本件譲渡債権の弁済期は、昭和六一年七月六日であったが、被告は、債権者集会の推移を見て本件譲渡債権を回収しようと考えていたので、右弁済期を過ぎても東急に支払を求めず、綿引弁護士から債権者の動向を聞きながら、本件譲渡債権額のうち、一般債権者に対する配当原資に回す金額を検討し、債権者委員長と称する高橋時雄とも交渉し、結局六〇〇万円を配当原資に回すこととし、昭和六一年一一月四日、綿引弁護士の事務所において、東急から一一四〇万円の支払を受けた(六〇〇万円は一般債権者に対する配当原資となった)。
(九) そして、タカベは、昭和六一年一二月ころ、一般債権者に対する配当を実施したが、結局、配当原資は右六〇〇万円を含めても、一三四三万七一七〇円と本件譲渡債権額にも満たないものであり、負債総額(銀行等借入関係、小沢木工所に対する債務等を除く)六六九四万二三二〇円に対して二〇パーセントの配当しかできなかった。
以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
3. 右1、2の事実によれば、被告は、被告のタカベに対する債権については、その弁済が遅滞なくなされており、人的、物的担保も設定されていたにもかかわらず、三日後には一回目の手形の不渡りを出し、倒産することが確実であったタカベから、期限前弁済の譲渡担保として本件債権譲渡を受けてさらに優先弁済権を取得し、一般債権者の共同担保を減少せしめたものであり、また、タカベの代表取締役である軽部は、本件債権譲渡によって一般債権者に対する共同担保が減少し、一般債権者が僅かな弁済しか受けられなくなることを十分に知りながら、自らの連帯保証債務や本件土地建物に対する被告の根抵当権の負担を免れるために本件債権譲渡契約を締結したものと認められるから、本件債権譲渡契約は、原告主張のとおり、詐害行為となるものというべきである。
三、抗弁1について
被告は、詐害行為の当時債権者を害することを知らなかった旨主張し、証人村石曜一の証言中には右主張に沿う部分があるが、前記二で認定した事実によれば、軽部の被告に対する申し出は、タカベが倒産することを明言しながら、弁済の遅滞もなく、人的、物的担保も設定されている被告に対する貸金債務を、本件譲渡債権で期限前弁済するという異常なものであり、そのため、被告も、本件譲渡債権の弁済期にその回収に着手せず、債権者集会の推移を見ていたものであるから、被告が本件債権譲渡が他の債権者を害する結果になることを知らなかったとは到底認められず、むしろ、十分に知りながら債権の早期の確実な回収を図って本件債権譲渡を受けたものと推認され、証人村石曜一の右証言部分は措信できない。
したがって、抗弁1は理由がない。
四、抗弁2について
1. 被告は、原告の詐害行為取消権の行使が信義則に反し許されない旨主張し、原告も出席したタカベの第一回の債権者集会においてタカベから提出された債権者一覧表には既に被告の名前は記載されていなかったこと、本件譲渡債権のうち六〇〇万円は配当原資に回され、被告は東急から一一四〇万円の支払を受けたにすぎないこと及び本件譲渡債権から右六〇〇万円だけを配当原資に回したのは綿引弁護士及び債権者委員長と称する高橋時雄と被告との交渉結果に基づくものであることは前記二で認定したとおりであり、原告が配当金を受領していることは当事者間に争いがない。
2. そして、前掲甲第五号証によれば、原告は、本件債権譲渡がなされたことが記載された昭和六一年九月九日付のタカベ作成の「一般債権整理貸借対照表」と題する書面を取得していることが認められ、前掲乙第二号証によれば、被告が本件譲渡債権の支払を受けた昭和六一年一一月四日付で、債権者委員長と称する高橋時雄から被告に対し、本件債権譲渡契約を正当と認め、以後これにつき何ら異議を述べない旨記載した誓約書が交付されていることが認められる。
3. しかし、原告が右高橋時雄を債権者委員長に選出し、あるいは右高橋時雄や綿引弁護士に本件債権譲渡についての処理を委任したと認めるに足りる証拠も、本件債権譲渡契約について異議を放棄したと認めるに足りる証拠も何ら存在せず、かえって、<証拠>によれば、①原告は、売掛代金について全く支払を受けないうちにタカベが倒産してしまったので、昭和六一年七月二四日、タカベの財産のうちで最も回収可能性が高いと判断した本件譲渡債権につき債権仮差押決定を得たが、第三債務者である東急からは同年八月五日付で本件譲渡債権は存在せず、弁済の意思もないという陳述書が提出されたこと、②昭和六一年七月末ころ、原告はタカベを被告として売掛代金等請求の本訴を提起したが、タカベは、原告からタカベに対する厨房設備機器等の売渡しの日時及び残代金額を争ったため、証人尋問が実施され、昭和六一年一一月一三日に原告全部勝訴の判決が言い渡されたこと、③原告は、昭和六一年八月中旬ころ開催されたタカベの第一回の債権者集会に本件における原告訴訟代理人である新居弁護士とともに出席したが、右債権者集会は、タカベの経営状態及び今後の整理方針についての綿引弁護士からの説明で終始し、整理についての具体的な決定はなされなかったこと、④その後、原告は、タカベの債権者集会には出席せず、タカベに対する前記訴訟を追行していたが、右訴訟で原告が勝訴判決を得た後の昭和六一年一二月ころ、右判決の認容額(元本)である九四八万一九〇〇円の二〇パーセントである一八九万六三八〇円が配当金としてタカベの債権者委員会から原告の振込口座に振り込まれたこと、⑤原告は、二〇パーセントの配当で了承する旨の意思を表明したこともなく、右振込口座を債権者委員会に知らせたこともなかったが、債権者委員会は、原告がタカベに対して発行していた請求書に記載されていた原告の振込口座に右配当金を振り込んだものであること、以上の事実が認められるから、右1、2の事実が存在するからといって、原告の詐害行為取消権の行使が信義則に反するものということはできず、抗弁2も理由がない。
五、よって、詐害行為取消権に基づき、本件債権譲渡契約を原告の債権額七五八万五五二〇円(判決による認容額九四八万一九〇〇円から配当額一八九万六三八〇円を控除した金額)の限度で取り消し、被告に対し右金員の支払を求める原告の本件請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
なお、仮執行宣言の申立は相当でないので却下することとする。
(裁判官 福田剛久)
<以下省略>